501010710
4/16

 入院時、ナースコールの使い方を何度も何度も教えました。しかし、母はすぐに忘れてしまいます。そのたびに叱ります。すると、「ごめんなさい。ごめんなさい」。 記憶は残らない。しかし、(好き・嫌いの)感情は残る。これは認知症ケアの鉄則です。ナースコールの意味が理解できず、繰り返し叱られた嫌な感情だけが母には残ったことでしょう。 母のアルツハイマー病は「夜間の幻視」が特徴でした。一晩に何度か起き、いない人に向かって話しかけます。ある晩、思わず声を荒げてしまいました。母は手を合わせ「ごめんなさい。もう二度としません」。またもやゴメンナサイです。本当に辛かったのは、認知症という病気に「眠らせてもらえない」母だったと気付きました。わたしは「病気を叱っていた」ことになります。“嫌な人”になりかけていました。 「わたし頭がヘンになっちゃった」と言った母の声が耳の奥に残っています。認知症の人のこころの中には、わたしはどうなってしまったの44444444444444という「混乱」と「不安」があるようです。その「不安」が不可解な行動に向かわせます。“行動”には元となる理由があります。そこに向き合って、不安を和らげることに心すれば、徘徊(嫌な言葉!)やもの盗られなども、よほど緩和されるでしょう。 母と一緒に家族会に通い、多くの人の体験談を聞きました。認知症は十人十色だなあと思いました。多くの専門職とも知り合うことができました。家ケアラー族介護者と専門職、異なる視点からの情報で視野が広がりました。 今、“Dカフェ”という名の認知症カフェを民家、病院、介護事業所、飲食店などで月に十数日、開催しています。認知症の人の不安やケアラーのストレスに寄り添い、皆で知恵を出し合って、課題に向き合っています。* この本はDカフェに集うケアラー、ケアマネジャー、訪問看護師、医師たちによる「介護編集会議」で作りました。Dカフェ活動で培ってきた認知症ケアの在り方を、実践的な「Q&A」という方法で表現しました。メンバーの多様な経験から、まずQを設定し、議論してAを導き出しました。しかし、「認知症介護に正解はない」のですから、成功例・失敗例を並記するようにしました。読者の皆さんに多様な選択肢を提供し、それぞれのはじめに4

元のページ  ../index.html#4

このブックを見る