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………………………………5 妊娠・分娩・産褥期の助産診断、助産ケアは、いかなる場であっても母子にとって安全で安心なケアを提供できるためのものでなければならない。そのために、助産師は、必要な知識、技術、ケアリングの姿勢を備えている必要がある。 助産教育課程で得ることができた基本的な知識や技術は、助産教育課程修了時に設定された到達目標であり、助産師の資格を得るための助産教育に期待された成果であるともいえる。助産師の資格を得たあとに獲得する知識や技術は、計画的で意図的な臨床実践の積み重ねによって獲得することができる。 助産教育課程で学んだ知識や技術の活用によって、積み重ねることのできる助産技術や助産ケアは、比較的正常に経過した妊産婦へのケアであることが多い。初産の平均年齢が30歳を超えている現代にあっては、出産時の年齢が、生理的な変化とはいえ妊娠・分娩・産褥に及ぼす影響を考慮することが必要である。また、増大しているやせの妊婦や、ライフスタイルの変化が引き起こす妊娠・出産への影響を踏まえた助産診断を行い、助産ケアの提供が必要となるが、助産教育課程で獲得した知識や技術のみでは、これらの影響による母体や胎児の変化を早期に把握し、対応することが難しい状況が発生している。つまり、助産師として幅広い実践範囲への関与が求められているにもかかわらず、その対応が困難になっている状況が発生していると言えよう。さらに、母体や新生児の状態をよりよくするためには、特定の知識や技術を獲得しなければならない状況も発生している。 いかなる場でも安全で安心な助産実践が行える助産師であるためには、「助産師が知っておくべきことは何か」と「助産師は何をしなければならないのか」ということを明らかにしておく必要がある。何を行うべきかについては、当然ながら、根拠に基づいた行動である。 そこで、本書は助産師に求められている幅広い実践範囲への関与に対する期待にこたえるために、企画された。 幅広い実践範囲への関与という期待にこたえるためには、臨床推論できる能力が要求される。この第1巻妊娠編では、妊婦の症状は、経過観察としてよいのか、なんらかの徴候であるのか、直ちに医師の診察が必要なのか、また、適切な報告の仕方はどうあるべきか。順調に経過しているように見える妊婦に潜む危険なサインをいかに素早く正確に読み取るか。27の症例を通して、母子の健康と生命を守るにはまず何を考え、どこを見て、どう動くのか、妊婦の正常からの逸脱を防ぎ、質の高い助産ケアを提供するため、日々発生する事象において、解説する。 2016年6月序 文公益社団法人日本看護協会 福井トシ子
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