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………………………………5 妊娠・分娩・産褥期の助産診断、助産ケアは、いかなる場であっても、母子にとって、また家族にとって安全と安心とを保障するものでなければならない。助産師はそのために必要な知識、技術、ケアリングの姿勢を備え、ことに産褥期においてはコミュニティの理解や保健医療福祉の資源にも精通し、知識・技術をより確かなものに高め、ケアリングの姿勢を成熟させる義務がある。 助産師は関係者と協働しながら実践範囲にある対象のケアを行う。現在、産褥期の対象は社会環境の変化などに伴って心理・社会的に、また経済的にもより一層複雑になってきた。分娩介助を行った助産師によるケアだけでは、母子に必要な内容を、必要なときに、十分に提供することが難しくなってきたのである。 産褥期にある女性へのケアとは、分娩後に起こる身体的および情緒的な変化を踏まえ、復古が正常に経過できるよう身体的ケアを施しつつ、産褥早期の依存期を十分に満たせるよう支援を行い、親子の絆とアタッチメントの形成を促進することである。なかでも、分娩経過を肯定的に受け止めることができるように支援し、母親役割取得過程を促進するためのかかわりを持つことが、助産師によるケアの中心となる。 妊娠期および分娩期の支援が、その後の産褥期へ、そして育児期の支援へとつながる。リスクが把握できないまま分娩期を経て、産褥のケアに携わるということがあってはならない。新生児に必要なケアを提供するための責任を果たすこともまた義務としてある。この責任には助産師による説明責任も含まれており、産褥期には母子を離さないケアが重要である。専門職として、事故を予防し、正常な経過を促進することはもちろん、ケアの内容には母親と子どもの合併症を発見すること、医学的な対応が必要かどうかを見極めること、そのほかの症候や状態に対する適切なアセスメント、救急処置の実施も含まれる。 母子ともに健康な場合も、そうでない場合も、産褥期はその先に長く続いていく育児のスタート地点である。切れ目のない育児支援、虐待の防止といった観点から、母体の心身の健康保持の重要性は増しており、地域資源を提供しながら家族形成支援やコミュニティの一員として支援を行う機会も増えていることから、関係者との連携・協働が重視される。 さらには、死産や新生児死亡などで産褥早期に悲嘆過程にある対象には、女性や家族へのケアの方向性を指針として備えていることが必要となる。産褥早期の依存期を満たすケアに加え、悲嘆過程へのケアを行うことが必要になるため、備えなければならない知識や技術は多くなる。本書では、総論に加え15の事例を含め、全体を通してメンタルヘルスへのサポートについて特に重点を置いた解説を展開する。 2016年8月公益社団法人日本看護協会常任理事 福井トシ子序 文

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